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東京地方裁判所 昭和31年(ワ)9561号 判決 1959年10月31日

主文

一、被告古川美代、同古川守之、同古川昭、同飯田瑞枝、同長沢和子は原告等に対し別紙目録(一)記載の土地及び同(二)記載の建物につき売買による所有権移転登記手続をせよ。

二、被告古川美代、同古川守之、同古川昭は原告等に対し、別紙目録(二)記載の建物を明渡せ。

三、原告等の被告古川美代、同古川守之、同古川昭に対するその余の請求を棄却する。

四、被告神保智子は原告等に対し別紙目録(一)記載の土地につき東京法務局練馬出張所昭和三十一年二月二日受付第壱四四七号をもつてなされた同目録(イ)記載の抵当権設定登記、同第壱四四八号をもつてなされた同目録(ロ)記載の所有権移転請求権保全仮登記、同第壱四四九号をもつてなされた同目録(ハ)記載の賃借権設定請求権保全仮登記の各抹消登記手続をせよ。

五、被告滝内礼作は原告等に対し別紙目録(二)記載の建物につき東京法務局練馬出張所昭和三十一年二月二日受付第壱四五〇号をもつてなされた同目録(イ)記載の抵当権設定登記、同第壱四五壱号をもつてなされた同目録(ロ)記載の所有権移転請求権保全仮登記、同第壱四五弐号をもつてなされた同目録(ハ)記載の賃借権設定請求権保全仮登記の各抹消登記手続をせよ。

六、訴訟費用はこれを二分し、その一は被告古川美代、同古川守之、同古川昭、同飯田瑞枝、同長沢和子の負担とし、その余は被告神保智子、同滝内礼作の負担とする。

事実

第一、(被告古川美代、同古川守之、同古川昭、同長沢和子(以下単に被告古川等五名という)に関する分)

原告等訴訟代理人は被告古川等五名に対し主文第一、二項同旨並びに被告古川美代同古川守之、同古川昭は原告等に対し昭和三十一年十二月三十日以降、主文第二項記載の建物明渡済に至るまで一ケ月金四千二百七十円の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告神保智子、同滝内礼作との連帯負担とするとの判決並びに主文第二項記載の建物の明渡しについて仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、原告等五名は訴外増井文之の共同相続人であり、被告古川等五名は右増井文之の弟である訴外古川完治の共同相続人である。

二、訴外増井文之は昭和三十年八月十六日、同古川完治は同三十一年二月二日夫々死亡した。

三、訴外古川完治は訴外トキワ工業株式会社の創立資金その他の費用にあてるため右会社と連帯して訴外増井文之より七回にわたり次の金員を借りうけた。

借受期日 金額 返済期日 利息

昭和二十八年十一月五日 七十万円 昭和二十九年十一月四日 月三分

昭和二十八年十一月十九日 二十万円 昭和二十九年二月十八日 月三分

昭和二十九年四月二十八日 四十万円 定めなし 月三分

昭和二十九年九月二十八日 十五万円 定めなし 月三分

昭和三十年三月十八日 百万円 定めなし 月二分

昭和三十年五月二十四日 五十万円 定めなし 月二分

昭和三十年七月二十五日 二十五万円 昭和三十年八月二十四日 月四分

計 三百二十万円

四、右古川完治は右の債務を約定の期限に弁済できなかつたので右の返済期日を昭和三十年十二月末日に延期し、その支払のための担保として(1)古川完治所有の別紙目録(一)記載の土地(以下本件土地という)同(二)記載の建物(以下本件建物という。本件土地、本件建物の両者を合わせて以下本件という)の各所有権を内外共に増井文之に譲渡する。(2)右期限までに右債務が弁済されたときは本件物件の所有権は古川完治に復帰するが弁済期限を徒過するときは本件物件の所有権を返還すべき義務は消滅する。

(3)利息は従来通りとする。(4)本件物件は古川完治に使用貸する、(5)右所有権移転については速やかに登記するとの内容の譲渡担保設定契約を増井文之との間に昭和三十年五月上旬頃、口頭で締結し、同日本件物件の所有権は増井文之に移転した。

五、しかるに右約定による本件物件の所有権移転登記に必要な書類が完全に揃わず手間どつている間に増井文之、古川完治が相ついで死亡したので右登記はなされないまゝになつていた。

六、前記債務はトキワ工業株式会社からも又古川完治からも期限に至るも弁済されなかつたので増井文之の本件物件の所有権返還義務は消滅した。

七、原告等は増井文之の本件物件の所有権の共同相続人であるから右古川完治の共同相続人でありその義務の承継者たる被告古川等五名に対し本件物件につき所有権に基き売買による所有権移転登記手続をすべきことを求め、被告古川美代、同古川守之、同古川昭に対しては本訴状によつて本件建物の使用貸借契約を解除し、その明渡しを求めると共に本訴状送達の日の翌日である昭和三十一年十二月三十日以降右明渡済に至るまで月四千三百七十円の公定家賃相当額の損害金の支払を求めるものであると述べた。

第二、(被告神保智子、同滝内礼作に関する部分)

原告等訴訟代理人は被告神保智子、同滝内礼作に対して、

(一)  第一次的請求として主文第三項、同第四項、各同旨及び訴訟費用は被告古川等五名と被告神保、同滝内両名の連帯負担とするとの判決を求め請求の原因として、

一、原告等は前記第一項乃至第四項の理由により本件物件の所有者である。

二、昭和三十年二月二日訴外古川完治が死亡したので本件物件につき調査したところ、原告等の知らぬ間に古川完治を登記義務者として被告神保智子のために本件土地につき主文第三項記載の抵当権設定登記等の各登記がなされて居り、又被告滝内礼作のために本件建物につき主文第四項記載の各登記がなされているのを発見した。

三、右抵当権設定等の各契約は本件物件の所有者たる原告等のあずかり知らぬところであり、右各契約は虚偽のものであり、不存在である。

四、仮に右各契約が存在するとしても、右は古川完治所有の財産について何等の権限を有しない訴外西垣栄孝が、古川完治に無断で締結したものであつて無効である。

五、仮に右抵当権設定契約等が有効になされたとしても、右登記に際して登記手続代理人たる訴外高瀬武市が使用した古川完治名義の委任状は同人の死亡した昭和三十一年二月二日付のものであつて右委任状は右西垣栄孝が古川完治の実印をほしいまゝに使用して偽造したものであり右の書類によつてなされた本件抵当権設定等の登記は無権代理人によるものであるから無効である。

六、仮に右高瀬武市に代理権があつたとしても本人たる古川完治の死亡により右高瀬の代理権は消滅したから同人による本件登記は無権代理人による登記であるから無効である。右いずれの理由によるも本件抵当権等の登記は無効であるから各その抹消を求めるものである。と述べ、

被告本人、被告神保訴訟代理人滝内礼作の主張に対し、古川完治が昭和三十年五月二十三日に訴外渡辺力蔵を代理人として本件建物につき所有権保存登記をしたことは認めるがその余の事実は否認する。仮に被告等が古川完治の共同相続人等より本件抵当権設定等の登記につき追認を得たとしても民法第百十六条の規定は登記申請行為には適用がないから追認があつても右登記の瑕疵は治癒されない。又仮に被告等が右登記申請手続の代理権の消滅につき善意の第三者であつたとしても民法第百十二条は登記申請行為には適用がないと述べ、

(二)  仮に第一次的請求が認められないとしても、第二次請求として被告古川等五名が被告神保、同滝内に対してなした本件土地、家屋に関する主文第三、四項記載の各登記の原因たる各契約についてなした追認は、之を取消す、並びに主文第三、四項同旨、訴訟費用は被告古川等五名と被告神保、同滝内との連帯負担とするとの判決を求め、請求の原因として

一、原告等は被告古川等五名に対し、増井文之とトキワ工業株式会社、古川完治との間の前記貸借に基く、三百二十万円の債権を有するところ、被告古川等五名は、訴外西垣栄孝が無権代理人として被告神保、同滝内との間に締結した本件抵当権設定その他の契約を追認した。本件物件は被告古川等五名の財産として唯一のものであり、右追認は原告等を害する行為である。

二、仮に原告等の被告古川等五名に対する債権が、特定物たる本件物件の引渡請求を内容とするものであつたとしても他に資産を有しないで処分したものであるから原告等を害する行為である。

三、被告神保、同滝内両名は悪意の受益者である。

四、右の各理由により被告古川等五名が被告神保、滝内両名に対して為した本件抵当権設定等契約並びにその登記手続に関する追認は債権者たる原告等に対する詐害行為であるからこれを取消し、悪意の受益者たる被告両名に対して右各登記の抹消を求めるものである。

と述べ、

被告等の主張に対して原告等が本件詐害行為を知つたのは昭和三十一年六月上旬頃であるし、取消の主張をした時は追認の時より二年を経過する前であるから右取消権は時効により消滅しないと述べた。

第三、被告古川等五名の訴訟代理人は原告等の請求棄却の判決を求め、答弁として、原告等の主張事実中、原告等が訴外増井文之の共同相続人であり、被告古川等五名が右増井の弟である訴外古川完治の共同相続人であること、右増井並びに古川完治が原告主張の年月日に夫々死亡したこと、本件土地、建物に原告等主張どおりの各登記のなされていることは認める。公定家賃額が月四千二百七十円であることは不知、その余の事実は否認する。訴外増井文之より金員を借受けたのは訴外トキワ工業株式会社であつて古川完治個人ではないと述べた。

第四、被告本人、被告神保訴訟代理人滝内礼作は、原告等の請求はいずれもこれを棄却する、訴訟費用は原告等の負担とする。との判決を求め、原告等の第一次的請求原因に対する答弁として原告等の主張事実中、被告古川等五名が訴外古川完治の共同相続人であること、右古川完治が原告等主張の年月日に死亡したこと、本件物件に原告等主張の抵当権設定等の各登記が存在することは認める、原告等が訴外増井文之の共同相続人であること、訴外増井文之が古川完治に対して原告等主張のような債権を有していたこと、右増井文之が原告等主張の年月日に死亡したこと、原告等主張のような事情により訴外増井文之のための所有権移転登記がなされなかつたことについては不知、その余の事実は否認する、若し、原告等主張のごとく、訴外増井文之が訴外古川完治との間に本件物件に関し、譲渡担保契約を締結していたとすれば、右古川完治は訴外渡辺力蔵を代理人として昭和三十年五月二十三日に本件建物につき自己名義の所有権保存登記をしているのであるから、当然其の頃右譲渡担保契約による所有権移転登記もしていた筈である、と述べ、

主張として、

一、本件抵当権設定契約等は古川完治との間に締結されたものである、仮に古川完治の無権代理人との間になされたとしても、古川完治の死亡後、被告等の代理人佐藤二一に対し古川完治の共同相続人全員が右契約を追認し、右各契約の原因たる債務につき弁済の延期を求め被告等はこれを承諾した、又本件抵当権設定等の登記申請に関する古川完治名義の委任については古川完治の共同相続人一同から追認を得て居り、委任の効力は失われて居らず、本件登記は有効である。

二、仮にしからずとするも、民法第百十二条が登記申請の委任についても準用されるものであつて、被告等は古川完治の死亡による代理権の消滅につき善意の第三者であるから代理権の消滅をもつて対抗されない、又仮に登記手続に瑕疵ありとしても、当該登記が現在の実体的権利関係に合致するものであるから本件登記は有効である。

と述べ、

原告等の第二次的請求原因に対しては、原告等の主張をすべて否認し、抗弁として原告等が、本件抵当権設定等の登記の事実を知つたのは昭和三十年であつて、その後二年の経過により原告等の詐害行為取消権は時効により消滅したから原告等の請求は失当である、と主張した。

第五、立証(省略)

理由

第一、(被告古川等五名に関する分)

一、原告等が訴外増井文之の共同相続人であり、被告古川等五名が、右増井文之の弟である訴外古川完治の共同相続人であり、昭和三十年八月十六日に右増井文之が、又、昭和三十一年二月二日に右古川完治が夫々死亡し、原告等及び被告古川等五名が、夫々各先代の権利義務を承継したことについては当事者間に争いがない。原告等は右増井文之が右古川完治に対して債権を有しその担保として、古川完治所有の本件物件の所有権の譲渡を受けたと主張し、被告等はこれを争うのでこの点について判断するに、原告本人増井賢、被告本人古川美代の各尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第五号証並びに、第三者の作成にかかり弁論の全趣旨からして真正に成立したと認められる甲第六号証乃至第十二号証、証人那須秀吉、同中野良一、同渡辺力蔵の各証言、原告本人増井賢、被告本人古川美代各尋問の結果によれば、訴外古川完治は訴外トキワ工業株式会社の代表取締役として、同人の兄である訴外増井文之より、右訴外会社の運営資金にするため昭和二十八年五、六月頃より同年十一月五日までの間、数回に合計金七十万円を借受け、同日これを原告主張の弁済期及び利息の定めで一口の消費貸借に改め、かつ債務不履行のときは古川完治の住宅の売却代金の中より返済することを約しその後更に、同年十一月十九日以降、昭和三十年七月二十五日までの間前後六回にわたり、原告主張の金額を原告主張の約定で借り受けたが、その間、古川完治は、昭和三十年五月上旬頃増井文之との間に、右訴外会社の当時の借金二百四十五万円と、後日借受ける約の七十五万円との合計三百二十万円の債務の担保として、古川完治個人所有の別紙目録(一)記載の土地、同(二)記載の建物につき、同人居住のままその所有権を売買名義により右増井文之に譲渡する。但し昭和三十年十二月末日までは右債務の支払を猶予する旨の口頭の契約を締結したことが認められる。原告は、古川完治が右訴外会社と連帯して債務を負担した旨並びに右両名間において本件物件の所有権を内外共に増井文之に移転し、昭和三十年十二月末日までに右債務が返済されないときは、増井文之は右物件の所有権の返還義務を免れるとの契約を締結した旨主張するけれども、これを認めるに足る証拠がない。従つて古川完治は右訴外会社の債務担保のため本件物件につきいわゆる弱き譲渡担保を設定したものと認めるのを相当とする。

次に、証人渡辺力蔵、同那須秀吉の各証言により真正に成立したと認められる甲第十三号証の一乃至四、第十四号証の一乃至三、第三者の作成にかかり、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第十三号証の六、成立に争のない甲第十三号証の五、第十四号証の四、並びに前記証人両名の各証言によれば、古川完治が那須秀吉を通じて渡辺力蔵に対し、増井文之のために、本件物件の売買に因る所有権移転登記をなすことを委任したが、書類の不備のため右登記がなされないうちに右増井文之が死亡し、更にその翌年古川完治が、死亡したため現在に至るも未だ右所有権移転登記がなされていないことが認められ、他に右認定を動かすに足る証拠はない。従つて被告古川等五名は原告等に対し、本件土地、建物について夫々売買による所有権移転登記をなすべき義務がある。

二、更に弁論の全趣旨によると、前記三百二十万円の債務は前記期限を経過しても右訴外会社より原告等に対して弁済されなかつたことが認められ、従つて、原告等は右期限の経過と同時に本件物件を売却して訴外会社に対する右債務の弁済に充当する権利を有するに至つたものというべきであるから、被告古川等に対し右売却のため本件物件の引渡を請求し得ること勿論である。

三、ところで、本件建物については、被告古川美代、同古川守之、同古川昭が古川完治存命中より居住したまゝであることが、原本の存在並びに成立に争いのない乙第三号証により窺われ、一方前記譲渡担保契約の際本件物件の使用に関し賃料を定めた形跡がない以上、明示の意思表示は認められないけれども、前記譲渡担保契約締結と同時に、右古川完治と増井文之間に本件物件に関し使用貸借契約が締結されたものと認めるのを相当とする。そして右被告等は古川完治の死亡と同時に右使用貸借並びに古川完治の占有関係を承継し、現在に至つているものというべきである。しかるに右使用貸借は本件訴状の送達により解除されたものというべきであるから右被告等三名は原告等に対し、本件建物を明渡す義務あること明らかである。尚原告等は、右被告等に対し、本件建物につき右使用貸借解除後明渡済に至るまでの賃料相当損害金の支払を求めるけれども、原告等は単に担保権実行のため右被告等に対し本件建物の明渡請求権を有するに過ぎないから、本件建物の明渡遅延により原告等が蒙る損害は結局被担保債権の履行遅滞に因る損害に帰着し、原告等がその外に本件建物の賃料相当の損害を蒙むるいわれがない。従つて原告の右請求は失当である。

四、以上の次第であるから被告吉川等五名に対し、本件土地、建物について夫々売買による所有権移転の登記を、又被告古川美代、同古川守之、同古川昭に対し本件建物を原告等に明渡すことを求める原告等の請求は理由があるが、右被告等三名に対し訴状送達の翌日以降右明渡済に至るまで家賃相当額の損害金の支払を求める原告等の請求は理由がない。

第二、(被告神保智子、同滝内礼作に関する分)

一、被告神保、滝内両名が、本件土地、建物につき、夫々原告主張の如き登記を経たことについては当事者間に争いがない。被告等は右登記原因どおりの抵当権設定その他の各契約が訴外古川完治との間に締結されたもので、右各登記は適法有効であると主張するが、本件に顕われた全証拠によるも、右事実を認定し得ない。却つて古川完治名下の印影の真正につき争いのない甲第十七号証の三、同第二十号証の二の各存在、証人那須秀吉、同中野良一、同佐藤二一、の各証言、被告本人古川美代尋問の結果を綜合すれば、訴外西垣栄孝が訴外トキワ工業株式会社取締役の地位を利用し右トキワ工業株式会社のためと称して被告等より金員を借りうけた際、当時訴外古川完治が病気のため会社業務を右西垣に一任し、古川完治の実印も右会社事務所の机中に保管されたままであつたことを奇貨として、本件物件の所有者たる古川完治の承諾を得ないのにかかわらず、ほしいままに同人の実印を使用し同人の名義を冒用して右抵当権設定その他の契約を締結し、かつ、右各登記をしたことが窺われるのであつて証人佐藤二一の証言中右認定に反する部分は措信し難い。

二、更に被告神保、滝内両名は、右抵当権設定契約等につき右古川完治の相続人たる被告古川美代等五名の追認を得たと主張するからこの点につき判断するに、証人佐藤二一は昭和三十年五、六月頃同人が被告神保、滝内両名に代り本件抵当権の被担保債務につき、その支払を求めたところ、被告飯田が担保を認めて支払う旨言明したと証言するけれども、被告飯田が無権代理行為の存在を認識してこれを追認したものとは認め難く、その他右追認のあつたことを認めるに足る証拠がない。

三、そして、本件抵当権設定等の登記を正当ならしめる理由について被告等は他に何等の主張もしない。被告等は、原告等が本件各登記の抹消を請求する適格を有する本件物件の所有者であることを争うけれども、前記第一の一において認定した事実及び成立に争いのない甲第三号証により認められる増井文之が原告等主張の年月日に死亡し、原告等が同人の共同相続人である事実によれば、被告両名に対する関係において原告等が、本件物件の所有者たることは明らかである。被告等は昭和三十年五月二十三日に訴外古川完治が本件建物につき所有権保存登記をしたにもかかわらず、訴外増井文之に対し所有権移転の登記をしなかつたことをもつて、原告等主張の如き譲渡担保契約が存在しなかつたことの有力な証拠であると主張するが、この事実のみをもつて前記認定を覆えすに足らない。以上の認定によれば、本件抵当権設定等の各登記はその登記原因が実質上存在しない無効の登記というべきであるから、被告神保、同滝内両名は、本件土地及び建物につき夫々なした抵当権設定等の各登記をいずれも抹消すべき義務がある。

第三、よつて原告等の被告古川等五名に対する請求は主文第一、二項掲記の限度において正当として認容し、その余は失当として棄却し、被告神保、滝内両名に対する第一次的請求はその余の争点につき判断するまでもなく、正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条但書、第九十三条を適用し仮執行の宣言は相当でないと認めこれを付さないことにし、主文のとおり判決する。

別紙

物件目録

(一) 東京都練馬区豊玉上弐丁目拾壱番ノ壱

一、宅地 壱六七坪九合四勺

(イ) 抵当権設定

昭和参壱年弐月弐日受付第壱四四七号

原因 昭和参壱年弐月弐日金円貸借契約に基く同日抵当権

設定契約

債権額金六拾万円也 弁済期昭和参弐年壱月末日

利息年壱割同支払期毎月末日

特約

利息を期日に支払わざる時は期限の利益を失い期限後は日歩金九銭の割合による損害金を支払うこと

(ロ) 所有権移転請求権保全仮登記

昭和参壱年弐月弐日受付第壱四四八号

原因 昭和参壱年弐月弐日停止条件附代物弁済契約

(昭和同年同月同日金円貸借契約による債務金六拾万円を弁済しないときは所有権を移転する)

(ハ) 賃借権設定請求権保全仮登記

昭和参壱年弐月弐日受付第壱四四九号

原因 昭和同年同月同日停止条件附賃貸借契約

(昭和同年同月同日金円貸借契約による債務金六拾万円を弁済しないときは賃借権が発生する)

借賃壱ケ月壱坪弐拾円

借賃支払時期 毎月末日 存続期間発生の日より満参ケ年

特約

賃借権を移転し又は賃借物を転貸することができる

(二) 東京都練馬区豊玉上弐丁目拾壱番地壱

家屋番号 同町参参番七

一、木造瓦葺弐階建居宅 壱棟

建坪弐八坪六合 弐階九坪九合

(イ) 抵当権設定

昭和参壱年弐月弐日受付第壱四五〇号

原因 昭和参壱年弐月弐日金円貸借契約に基く同日抵当権設定契約

債権額金五拾万円 弁済期 昭和参弐年壱月末日

利息 年壱割 同支払期 毎月壱日に前払のこと

特約 利息を期日に支払わざるときは期限の利益を失い期限後は日歩金九銭の割合による損害金を支払うこと

(ロ) 所有権移転請求権保全仮登記

昭和参壱年弐月弐日受付第壱四五壱号

原因 昭和同年同月同日停止条件附代物弁済契約

(昭和同年同月同日金円貸借契約による債務金五拾万円を弁済しないときは所有権を移転する)

(ハ) 賃借権設定請求権保全仮登記

昭和参壱年弐月弐日受付第壱四五弐号

原因 昭和参壱年弐月弐日停止条件附賃貸借契約

(昭和参壱年弐月弐日金円貸借契約による債務金五拾万円を弁済しないときは賃借権が発生する)

借賃 壱ケ月壱坪五拾円也 借賃支払時期 毎月末日

存続期間 発生の日より満参ケ年

特約 賃借権を移転し又は賃借物を転貸することができる

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